原題:Interstellar
監督:クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)
主な出演俳優:マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)、アン・ハサウェイ(Anne Hathaway)、ジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain)、マイケル・ケイン(Michael Caine)、ジョン・リスゴー(John Lithgow)、マット・デイモン(Matt Damon)
fix | 修復する(人間関係にも使われる)
人類の移住先となり得る惑星を探すミッションに参加することを決意したクーパー。
しかし帰還の可能性も時期も全く不明なミッションに、10歳の娘マーフは猛反対。
自室にこもりベッドでふさぎこむマーフの背中に寄り添いクーパーが優しい声で説得を試みます。
You have to talk to me, Murph.
I need to fix this before I go.
行く前に仲直りしたい。
これに対するマーフの返事はちょっぴり独特です。それが次のセリフ。
Then I’ll keep it broken so you have to stay.
- fix this
this(これ)はここではそれ以前の経緯を踏まえて「壊れた二人の関係」を指します。これを fix (修復)するから「仲直りする」という意味になるわけです。 - keep it broken
それ(ここでは「二人の関係」)を壊れたままにしておく
どうでしょう?
クーパーが「行く前に仲直りしたい」と言ったのは、「行く」という決意は変わらないけれど、それについて娘の理解を得てから行きたい、つまり、「行くし、かつ、仲直りしたい」という趣旨だったはずです。
しかしマーフの返事は、この「行く前に」という部分の言葉尻をとらえたものになっています。「行く前に仲直りしたい」ということは裏を返せば「仲直りするまでは行かない」ということだと曲解し、それならば「仲直りしない」状態を維持することによって「行く」という結果の発生を永遠に先延ばしできるはずだ、という思考がうかがえます。
論理的と言えば論理的であり、相手の言葉を利用してとっさにこのように切り返せるのは頭の回転も速いと言え、父親から受け継いだエンジニア気質のようなものがこのセリフからは垣間見えます。
それと同時に、遠くへ行こうとする父親をとにかくもあらゆる理屈で引きとめたいと願う切実さが、この独特のセリフ回しに上手く表れているシーンだと筆者は感じました。
ちなみに、「仲直りする」という英語表現としては、make it up with ~ などもあり、そちらのほうが一般的かもしれません。しかし、ここでは fix(修復する)と broken(壊れた)という対になる表現を使うことで、より省力的でリズミカルなセリフの応酬が生み出されていると言え、その点からも味わい深いシーンとして評価したいところです。